心に溜め込んだ負の感情が植物化し、花開く世界。
人間嫌いの猿妖怪・覚の化物は、人里離れた山の中で静かに日々を過ごしていた。ある日、山道付近でじゃれ合っていた子らの鞄を拾ってやったことでそのうちの一人に懐かれてしまい、この出会いを切っ掛けに大嫌いな人間達のいざこざに巻き込まれていく──。
覚の化物
山に棲むもの。人間は嫌いだが、全く情がないというわけではないようだ。里の子と交流する際は怖がらせないよう人に化ける。
里の子
里に住む人の子。木に引っ掛けられた鞄を取ってくれた「猿みたいなおじちゃん」にすっかり懐いてしまった。色々とワケあり。
篤明さん
里の宗教団体「幻丞一派」の下っ端。オールバックに一つ結び、紳士的なおひげが特徴の男性。いつもニコニコしている。
幻丞サマ
山の神を自称する老人。覚とは旧知の仲。山伏装束に似た着物だがあくまで「幻丞一派」内の制服、と彼らは話している。
ユウくん
山に棲むカラス。長生きしたことで人心が芽生えつつある。山の見回り役「カラス隊」の一員でもあり、間接的に幻丞一派の傘下。
大自然たち
植物、鳥獣、人間など、あらゆる種類の命がたくさん集まって成長してきた大自然。
本編
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ある朝の夢
巨大な毒の開花地点へ向かう「誰か」を見送る奇妙な夢を見た覚。モーニングコールに来た旧友らには適当を言って誤魔化しておいた。
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人の子、猿と出会うこと
友達のいじわるで鞄を木に引っ掛かけられてしまった少女は、偶々近くにいて鞄を取ってくれた謎のおじちゃんにすっかり懐いてしまう。
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崖の上でのある会話録
一派の長・幻丞は、旧友を更生させるべく見晴らしの良い崖横のベンチに彼を呼び出し、説得を試みる。その崖は曰く付きだったが、彼は特に気にしなかった。
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人の子、猿と再会すること
なくした鞄を探して深穴を覗き込んでいた少女は、突然誰かに突き飛ばされる。見れば目の前にはあのおじちゃんがいて、更に前方にはクマがいた。
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だるま岩付近でのある会話録
その大岩は昔から人間を見守ってきた。あだ名を付けられても慕われても、断りもなく座られても喧嘩が始まっても、静かに見守るだけだった。
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人の子、猿に毒を吸われること
里人との交流に嫌気が差した少女はまたも山に来て、大人達を困らせてやりたい気分で黄昏れていた。思考を巡らせているうちに毒は段々大きくなり──。
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白昼の愉快な悪巧み
多量摂取した毒を抑えきれず開花しかける覚と、彼の毒を引き受けるべく接触してきた篤明との間で、心の混線が起こる──。
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お猿さんとお山
山との関係を聞いてきたユウに、覚は簡単な答えだけ返して場を濁らせた。その山の「声」に夜通し付き合わされていたばかりで、疲れていたからだ。
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仮題「篤明さんのこと」
人の世から離れて一休みしている篤明を見掛けて、意地悪な猿は心を盗み見てやろうと画策する。